この記事では淋病の特徴と治療法を解説しています。
このサイトでは私の性行為に関する話題がわんさか出てきますが、その反面病気にはかなり気を使っています。
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そこで、啓蒙の意味も込めて性病に関するトピックを作成してみました。
ただ、素人の私が書いても説得力がないので、今回は中学生時代の同級生で現在医師になっている友人に執筆を依頼しました。
淋病は、昔から人々を悩ませてきた性病(性感染症)の一つです。男性は症状が出やすく、尿道から膿が出るなどとても分かりやすい特徴があります。
一方、女性ではおりものが増えるものの症状があまりなく放置される場合が多いことから、感染拡大と患者本人の長期的なリスクが問題となります。クラミジアとの重複感染がよくみられますから、あわせて注意が必要です。
淋病って何?
淋病は、淋菌という菌がセックス(オーラルセックス、アナルセックスも含む)で感染する性病で、クラミジアとともに患者数の多さが目立ちます。1984年に患者数がピークを迎え、それ以来減少しましたが、ここ5年ほどは横ばいです。現在、日本では20〜30代を中心に約1万人の患者が確認されており、内訳は20代が約50%、30代前半が約20%です。未診断の患者を含めるともっと多い数になるでしょう。
淋菌はバクテリアの一種です。日光や乾燥、温度変化、消毒薬にとても弱く、人体から離れれば数時間と生きていられません。そのため、感染するときはタオルやお風呂の共有ではなく、粘膜を介して拡散します。感染箇所は咽頭(のど)、尿道、膣、肛門などです。まれですが、眼の角膜に感染して失明するケースもあります。
淋病の危険性とは
淋病のこわさを知ることは、女性にとって特に重要です。男性は感染から1週間くらいで膿や排尿時の痛みなどわかりやすい症状がある(一方で無症状のこともある)のに対し、女性は感染しても8割が無症状です。そして、気づかないまま放置すると次のような影響があります。
- パートナーへの感染拡大
- クラミジアなどの重複感染
- 臓器癒着・不妊
- 出産時の母子感染
1回のセックスで感染率が30%もありますから、不特定多数の人とセックスするのは特に危険です。自分が感染する可能性を高め、人に感染させる機会も増えます。若い年齢で感染するのも未来への懸念があります。例えば10代で感染して気づかずに放置すれば徐々に重症へと進行しますし、女性は妊娠・出産時に問題を抱えるので将来的に深刻なリスクを背負います。他の性病にも言えることですが、早期の発見と治療がとても重要です。
淋病に感染したときの症状
淋病は主に性器(尿道・精巣上体・子宮頸管)、咽頭に感染します。女性では子宮頸管に感染した菌が内臓や骨盤に拡がり、強い腹痛を起こすことがあります。これらの部位以外でみられるものとしては血液中、結膜、直腸から淋菌が検出されることもあります。感染した部位によっては無症状の場合もあり、特に咽頭感染では男女ともに無症状のことが多いという特徴があります。咽頭感染ではフェラチオやクンニリングスによって他の人に感染拡大することが非常に多いです。
男性の症状の特徴
男性は陰茎に感染すると数日〜1週間程度で排尿時痛・膿性の分泌物といった尿道炎の症状が現れます。潜伏期間が比較的短いことから、発症の原因に心当たりがある場合がほとんどです。無症状のこともあり、放置すると炎症が精巣上体に進展して、精巣上体炎を引き起こします。片側の陰嚢が腫れ上がって疼くような痛みがあり、歩くときにかなり痛みます。早期治療しないと悪化して両側が腫れ、後遺症として無精子症、すなわち不妊となります。
女性の症状の特徴
女性は性器に感染すると子宮頸管炎や尿道炎を起こしますが、ほとんどが無症状のまま進行します。症状が現れる場合、子宮頸管炎では不正出血や、おりものが黄色くなり量が増加するなどがみられます。尿道炎の症状としては男性と同様に、尿道からの膿や排尿時の痛みがあります。
子宮頸管炎が進行すると、肝臓などの腹部内臓、骨盤、腹膜(腹部の臓器を包む膜)に進展して炎症や癒着を起こし、ときに腹部の激痛を伴います。
子宮頸管炎とは卵管の炎症ですから、排卵された卵子の通り道をふさいで月経異常を起こす原因にもなります。そして、子宮頸管炎が悪化し臓器癒着すると、治療自体が不可能なため不妊となります。もし妊娠しても子宮外妊娠などの異常妊娠が起こり、妊娠の途中で子宮破裂して母体が危険にさらされることになります。
男女に共通してみられる症状
代表的な部位ではないものの、
- 血液
- 結膜
- 直腸
に感染することがあります。血液中に淋菌がいると、発熱・だるさ・関節痛が突然生じることがありますが、淋病のせいだと自分で気づく患者はほとんどいないでしょう。しかし、すみやかに治療しなければ関節が破壊されていくため、疑わしい症状が出たら注意が必要です。
結膜の感染は乳児に多いものの、まれに大人でも発症します。結膜が感染した(他人の、あるいは自分の)体液にふれると、半日〜2日後に結膜炎を起こして大量の膿が出ます。ひどい場合には潰瘍によって角膜に穴があいたり、失明したりします。
近年、直腸に感染する人が男女ともに増えています。原因はアナルセックスです。無症状のことも多いですが、肛門がかゆい・違和感がある、アナルセックスのとき痛む、下痢や血便が出るなどの症状を訴える人もいます。
この他、クラミジアなどの性病に重複感染しているときも類似の症状が出ます。男性の淋病尿道炎患者では3割がクラミジアも持っています。また、何度もいいますが無症状だからといって性病に感染していないということではありません。むしろ、感染しているのに症状が出ないことの方が要注意です。
淋病はどのように感染する?
軽いキス程度では感染しませんが、感染箇所の粘膜や体液に相手の粘膜がふれると感染します。よくあるのは、
- 咽頭感染した人がフェラチオやクンニリングスする
- 性器感染した人とセックスする(オーラル含む)
- 性器感染した男性や肛門感染した人とアナルセックスする
などです。もうお分かりだとは思いますが「コンドームを使っておけば性病は防げる」というのは残念ながら100%真実ではありません。たしかにコンドームやピルは避妊に有効ですし、コンドームを使うと性器・肛門感染の予防にもなります。しかし、オーラルセックスで感染するのはどうにもなりません。
風俗に行った後で心配になって検査を受ける男性は多くみられます。ピンサロのように口でしてくれるお店に行った後も、淋病やクラミジアをもらっている可能性はありますから検査を受けた方がよいでしょう。風俗店などで働く女性たちは定期的に性病検査を受けて大丈夫か確認しているはずですが、それでもやはり、検査後に別のお客さんなどから性病をもらっていたらと思うと、感染の心配がないとは言い切れません。
お店の話ばかりではなく、個人的に不特定多数の人とセックスする人やパートナーが複数いる人、そしてピルを飲んでいる(コンドームを使わない)女性も性病全般の感染リスクが高くなります。日本では海外に比べてそのような習慣があまりないものの、アメリカではかつて若者を中心にクラミジアなどの性病が大流行したことがあり、それ以来、上記に当てはまる20代の若者に検査を推奨しています。
また、もし一度治療を受けたことがあっても、淋病は再感染しますから定期的に確認する必要があります。
これらセックス関連以外の感染経路として母子感染があります。妊婦さんが淋菌感染していて子宮頸管炎があると、出産のときに産道から赤ちゃんに感染し、主に結膜炎を発症します。
淋病の治療法
まず検査を受けて淋病か確認
男性では、陰部から膿が出るという明らかな異変にかなりのショックを受けて病院を受診する人がよくみられます。女性はほとんどが無症状で、ときにおりものが増えるなどの症状が出ることもありますが、膣トリコモナスのようにひどい悪臭がするなどの堪えがたい状況でもないため、症状に気づいても受診に至らないケースは多いようです。
病院に行って検査を受けると、各部位が感染しているかどうか調べられます。膿が出ていれば、それをサンプルとして当日検査ができます。調べる箇所によって、咽頭をうがいした後の液体や尿などの分泌物・体液をサンプリングして検査が行われます。検査には顕微鏡で観察する方法や、サンプル中から淋菌の核酸(DNA、RNA)を確認する検査(PCR)があります。
このような検査を行う以前に、症状や思い当たる出来事を問診で聞くと、だいたい診断がつくことはあります。とはいえ、症状が出ない場合もありますし、淋菌の検出率は以前と比べてとてもよくなりましたから、確認のために検査する価値は十分にあります。
淋病はクラミジアと症状が似ていて合併することも多いため、何に感染しているか見極めてしっかり治療するためにも検査は必要です。というより、病院で淋病の検査をする際はクラミジア検査も同時に行うようすすめられることがほとんどです。なお、検査にかかる時間や費用は病院によって異なります。
治療は主に注射
淋病の治療薬は、かつて飲み薬でした。しかし、使用されていた抗生物質に耐性のある淋菌が現れるようになりだんだん効かなくなってきたため、現在では注射薬による治療が行われています。
保険がきくのはセフトリアキソン(静脈注射剤)とスペクチノマイシン(筋肉注射剤)という2種類で、感染部位によって選択する薬剤や投与回数が異なります。尿道炎や子宮頸管炎、咽頭炎に対しては注射を1回行えばよいことが多く、効果はほぼ100%です。したがって、治療を行った後は菌がいなくなったかどうか確認の検査を必ずしも行わなくてよいとされます。
もし、上記の薬剤にアレルギーがあるときは他の薬(注射薬、内服薬など)が使われ、それが保険適用外のこともあります。抗生物質の服薬治療は威力や効き目がさまざまなこと、効果が現れる薬が淋菌の株によって異なることが特徴です。飲み続けても効果がみられない場合は薬を変更する必要もあります。なお、症状がなくなったからといって途中でやめると治療が不完全となり、淋菌が体内に生き残って再発することがあります。
治療内容や金額は、合併症の有無や病院の方針によっても変わってきますから、主治医とよく相談したうえで治療を受けましょう。
パートナーも一緒に治療を
性病の感染が発覚したら、パートナーも感染している可能性があります。必ず検査を受けてもらい、感染がないかどうか確認しましょう。もしお互いに感染していたら、一緒に治療を行います。パートナーも同時に治療を行うことがとても大切です。治療中の人が未治療(あるいは不完全治療)の感染者とセックスすると、せっかく治った淋病がパートナーから再感染するからです。これをピンポン感染といいます。
予防にはセックスしないのが一番ですがそうもいかないでしょうから、パートナーとともにこまめに検査を受けて早期発見・早期治療を目指すことをおすすめします。また、不特定多数の人とセックスするのではなく、パートナーを限定することも感染予防につながります。
淋病患者の事例と経過
淋病が咽頭に感染すると、男女ともに無症状であることがほとんどです。気づかずに誰かから感染し、カップル間でも感染した事例を紹介します。
別の女性からフェラチオ感染、彼女にも感染
23歳の男性です。彼女ではない女性にフェラチオされて、陰茎(尿道)に淋病が感染しました。このときは、その女性にクンニリングスしておらず咽頭には感染しなかったと思われます。
後日、19歳の彼女とセックスして、彼女の咽頭と子宮頸管に感染しました。その数日後、彼女にクンニリングスしたため、彼はもともと咽頭には感染していませんでしたが、このとき咽頭感染しました。
彼が病院を受診して淋菌検査を受けると、尿道と咽頭に感染していることがわかりました。早速ペニシリンの服薬治療を開始するとともに、彼女も検査を受けます。検査の結果、彼女に咽頭感染と子宮頸管感染が発覚したため、こちらも治療を開始しました。
彼はペニシリンを服薬して2週間で咽頭の治療が成功しました。しかし、尿からはまだ淋菌が検出されるため、他の薬に変更します。2回薬を変えたところで効き目が現れ、淋病発覚から2か月近くかかって治療が無事終了しました。
一方、彼女の方はレボフロキサシンを内服して1週間で子宮頸管は治療できましたが、咽頭は1か月経ってもまだ治りません。薬を変更してようやく効果があり、こちらも2か月弱で淋菌が検出されなくなったため治療が終了しました。
まとめ
現在では、この事例のような抗生物質の服薬治療が推奨されなくなっています。理由としては、薬剤耐性菌が増えていることや注射薬でほぼ完全に治療できることなどがあります。
淋病は早期発見できれば発覚から1〜2週間程度で完治できます。自覚症状がなくても、確認の意味で一度は検査を受けた方がよいでしょう。また、性器だけでなく咽頭にも感染しうるということを覚えておくと予防に役立ちます。
参考文献
- 性感染症診断・治療ガイドライン2016,日本性感染症学会誌,27(1)Supplement,2016.
- 芳賀伸治,他:感染症の話.感染症発生動向調査週報,2002年第22週号,2002.
- 厚生労働省:性感染症報告数.
<http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html>(2017年3月6日最終閲覧) - 小島弘敬:咽頭の淋菌,Chlamydia trachomatis (CT) 感染.口腔・咽頭科,14(3),243-253,2002.